歯周病は全身病?糖尿病・動脈硬化との深い関係を専門医が解説
2025年12月14日
歯周病は全身病?糖尿病・動脈硬化との深い関係を専門医が解説

歯周病と全身疾患の関係が注目される理由
「歯周病は口の中だけの病気」と思っていませんか?
実は、歯周病は単なる「歯ぐきの病気」ではありません。近年の研究により、歯周病が糖尿病や動脈硬化といった全身の病気と深く関わっていることが明らかになってきました。歯周病は、歯を支える骨や歯肉など周りの組織が溶けて破壊されていく細菌感染症であり、その影響は口腔内にとどまらず、血管を通じて全身に及ぶことがわかっています。
日本では40歳以上の約7割が何らかの歯周病に罹患しており、まさに「国民病」と呼べる状態です。歯周病は「お口の中のサイレントディジーズ(静かに進行する病気)」とも呼ばれ、症状が大きく進行するまで自覚症状が出にくいという特徴があります。そのため、知らない間に全身の健康を脅かしている可能性があるのです。
歯周病のメカニズム・・・なぜ全身に影響するのか
歯周病の基本的な仕組み
歯周病の原因は、歯の表面に付着している「プラーク(歯垢)」です。
プラークは単なる食べかすではなく、細菌が被膜を形成した「バイオフィルム」と呼ばれるものです。このバイオフィルムは薬物の浸透を防ぐバリアとなっているため、水や洗口剤で口をすすぐだけでは除去できません。しかし、歯磨き(ブラッシング)で簡単に取り除けるため、日々の口腔ケアが非常に重要になります。
歯と歯肉の境目(歯肉溝)の清掃が行き届かないと、そこに多くの細菌が停滞し、歯肉に炎症を起こします。歯肉が赤くなったり腫れたりしますが、痛みを感じることがほとんどないため、知らない間に症状が進行していきます。さらに悪化すると、歯を支える骨(歯槽骨)を溶かし、膿が出たり歯が動揺してきて、最後には歯を抜かなければならなくなってしまいます。
炎症が全身に広がるメカニズム
歯周病が進行すると、歯周ポケットと呼ばれる深い溝が形成されます。
出血や膿を出しているような歯周ポケットからは、炎症に関連した化学物質が血管を経由して体中に放出されています。中等度以上の歯周ポケットが口の中全体にある場合、そのポケット表面積の合計は掌(てのひら)と同じ程度と考えられています。手のひらサイズの出血や膿が治療なしで放置されていると考えると、からだ全体からも無視できない問題であることが理解できるでしょう。
ポケットから出て血流にのった炎症関連の化学物質は、体のなかで血糖値を下げるインスリンを効きにくくします(インスリン抵抗性)。そのため、糖尿病が発症・進行しやすくなります。また、歯周病菌のなかには、誤嚥により気管支から肺にたどり着くものもあり、高齢者の死亡原因でもある誤嚥性肺炎の原因となっています。
歯周病と糖尿病の「双方向の関係」
糖尿病があると歯周病になりやすい理由
糖尿病は、インスリンの作用不足で慢性的な高血糖を引き起こす代謝疾患です。
糖尿病患者では、歯周病が悪化しやすいことが以前から知られていました。実際、糖尿病の人はそうでない人に比べて歯肉炎や歯周炎にかかっている人が多いという疫学調査が複数報告されています。歯周病は糖尿病の合併症の一つとも言われており、高血糖状態が続くと免疫機能が低下し、細菌感染に対する抵抗力が弱まるため、歯周病が進行しやすくなるのです。
重度の歯周病を併発している糖尿病患者では、歯周病菌由来の毒素が歯周ポケットの深部に侵入し、多量の炎症性物質が産生されます。この炎症性物質は、インスリンの働きを妨げる「TNF-α」という物質の産生を促進し、血糖コントロールをさらに困難にします。
歯周病があると糖尿病が悪化する仕組み
歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼしあっています。
歯周病菌は腫れた歯肉から容易に血管内に侵入し全身に回ります。血管に入った細菌は体の力で死滅しますが、歯周病菌の死骸の持つ内毒素(エンドトキシン)は残り血糖値に悪影響を及ぼします。血液中の内毒素は、脂肪組織や肝臓からのTNF-αの産生を強力に推し進めます。TNF-αは、血液中の糖分の取り込みを抑える働きもあるため、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを邪魔してしまうのです。
一般的に歯周病を治療すると、血糖値が改善することが報告されています。歯周病を合併した糖尿病の患者に、抗菌薬を用いた歯周病治療を行ったところ、血液中のTNF-α濃度が低下するだけではなく、血糖値のコントロール状態を示すHbA1c値も改善するという結果が得られています。歯周病治療により、HbA1c値が平均0.4%程度改善するという研究結果もあり、これは糖尿病の内服薬1剤分に相当する効果と考えられています。

歯周病と動脈硬化の深い関連性
歯周病が動脈硬化を引き起こすメカニズム
動脈硬化は、不適切な食生活や運動不足、ストレスなどの生活習慣が要因とされていました。
しかし、近年では別の因子として歯周病原因菌などの細菌感染がクローズアップされてきました。歯周病原因菌などの刺激により動脈硬化を誘導する物質が出て、血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)ができ、血液の通り道は細くなります。プラークが剥がれて血の塊ができると、その場で血管が詰まったり血管の細いところで詰まります。
2025年の研究では、日本の地域在住の中高齢者において、歯周病の進行とアテローム性動脈硬化が有意に関連していることが示されました。頸動脈内膜中膜厚(cIMT)が1mm以上であった群は、歯周病進行のリスクが2.35倍高いという結果が報告されています。また、心臓足首血管指数(CAVI)の値は、歯周病進行群で有意に増加していました。
心臓病・脳卒中のリスクが高まる
動脈硬化により心筋に血液を送る血管が狭くなったり、ふさがってしまうと、狭心症や心筋梗塞を引き起こします。
歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞になりやすいと言われています。脳の血管のプラークが詰まったり、頸動脈や心臓から血の塊やプラークが飛んで来て脳血管が詰まる病気が脳梗塞です。血圧、コレステロール、中性脂肪が高めの方は、動脈疾患予防のためにも歯周病の予防や治療は、より重要となります。
実際、歯周炎患者血中からは歯周病原細菌をはじめとする口腔細菌の遺伝子が検出され、歯周炎を有する全身性の疾患患者の動脈硬化病変、心臓弁、滑膜組織、肝臓などからは歯周病原細菌のDNAが検出されています。また、歯周炎患者血中の炎症マーカー(高感度CRP)は歯周病の重症度と比例して上昇し、治療により低下することが示されています。

歯周病が腸内環境にも影響を与える
口腔細菌叢と腸内細菌叢の関係
2025年の最新研究により、歯周病患者では唾液中の細菌叢だけでなく腸内細菌叢にも乱れが生じていることが明らかになりました。
理化学研究所と新潟大学、群馬大学の国際共同研究グループは、歯周病以外に全身的な疾患のない患者と健康な対象者の唾液、ならびにふん便中の細菌叢を網羅的に解析しました。その結果、歯周病患者では唾液中の細菌叢だけでなく腸内細菌叢にも乱れが生じていることを突き止めました。また、歯周病を治療することで唾液中の細菌叢だけでなく、腸内細菌叢も変化することが明らかになりました。
近年、腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)がさまざまな疾患のリスクを高めることが明らかになっていますが、それらの疾患は歯周病とも密接に関係しています。代表的な歯周病原細菌を口腔から投与すると、腸内細菌叢の乱れが誘導されることが動物実験で確認されており、口腔細菌の腸内細菌叢への影響が注目されるようになっています。
全身疾患との新たな因果メカニズム
歯周病が全身疾患に影響を与える因果メカニズムとして、従来は「歯周炎病変部から侵入した細菌による菌血症」と「病変部で産生された炎症メディエーターの血中への流入」が考えられてきました。
しかし、これらのメカニズムだけでは歯周病と全身疾患の関連を十分に説明できませんでした。最新の研究により、口腔細菌が腸内細菌叢に影響を与え、その結果として全身の健康に悪影響を及ぼすという新たなメカニズムが明らかになりつつあります。歯周病治療・予防により健全な口腔細菌叢を回復し、それを維持することが全身の健康にとっても重要であることが示唆されています。
歯周病の予防と治療で全身の健康を守る
歯周病治療の基本的なアプローチ
歯周病治療の基本は、プラークや歯石除去といった原因除去です。
治療ではまずブラッシング指導により患者自身でプラークを取り除けるような練習を行います。プラークを形成する細菌が歯肉で引き起こしている炎症を減らすのが目的で、これは「プラークコントロール」と呼ばれ、歯周病治療の中心となります。患者自身によるプラークコントロールが基本となりますが、その上で歯科医院で定期的に受診を行い、歯周ポケットの中に付着しているプラークや歯石を超音波振動機器や手用器具を用いて取り除きます。これは「スケーリング」といい、歯科医療従事者が行う重要なプラークコントロールです。
一旦治療が終了しても、歯周病は再発することが多いため、「メインテナンス」もしくは「サポーティブセラピー」と呼ばれる定期的なチェックとケアを行っていくことが必要です。半年に一度は歯科医を受診し、生活習慣も含め口腔内のケアを受けるようにしましょう。
日々の口腔ケアが全身の健康につながる

歯周病の予防・治療を行うことで、全身の様々な病気のリスクを下げることが可能です。
日々の歯磨き・口腔ケアを見直し全身の健康につなげましょう。歯肉の炎症が全身に多くの影響を及ぼすことは昨今の研究で明らかになってきています。歯周病も糖尿病も生活習慣病ですから互いに深い関係があって不思議ではありません。毎日の食生活を含めた生活習慣を見直し、歯周病を予防する事が全身の生活習慣病を予防することにつながります。
歯医者は口腔内の変化をみることのできるプロです。口腔ケアも自分一人できちんと行うのは難しいと言われています。定期的に歯科医院を受診し、専門的なケアを受けることが、お口の健康だけでなく、糖尿病や動脈硬化といった全身疾患の予防にもつながるのです。
まとめ・・・歯周病は全身の健康を左右する重要な疾患
歯周病は単なる「口の中の病気」ではありません。
糖尿病との双方向の関係、動脈硬化や心臓病・脳卒中のリスク増加、さらには腸内細菌叢への影響など、歯周病は全身の健康に深く関わっています。歯周病を予防・治療することは、お口の健康を守るだけでなく、生活習慣病の改善やQOL(生活の質)の向上といった全身の健康にも寄与します。日々の丁寧な歯磨きと定期的な歯科受診により、歯周病を予防し、全身の健康を守りましょう。
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